皆さんは土木といえば何を真っ先に思い浮かべられるでしょうか。ダム、道路、橋などが考えられます。これらは「脱ダム宣言」やら「道路特定財源」やらで時の言葉になっています。こうした構造物を作るのはもちろん土木ですが、今回は少し違ってソフト的な土木です。土木の中の交通工学の範疇に入る話題をお届けいたします。
道路の整備と交通事故(渋滞を含む)は、前者が進んでも後者の増加がすぐ追い越し、なかなか抜本的な解決にはなりません。このいたちごっこを解決する切り札が、今回ご紹介する「ITS」かもしれません。この最先端の技術に触れる機会を得ましたので、特集としてご報告します。
【参加体験会概要】
「ITS」とは、「Intelligent Transport System」 のことで、日本政府訳では「高度道路交通システム」といいます。欧米と一言で言いますが、米では「Intelligent Transportation System」といい、日欧は前者です。日欧は「Transportation=流刑」の意味を嫌ったと、講師の説明でした。
「ITS」は、非常に広い概念(歴史的には陸上のみならず空海交通も含む)ですが、今日では主として道路における自動車の走行に関する事項を包括した概念になっています。すなわち
1)信号制御システム
2)ナビゲーションシステム
3)運転支援、自動運転システム
が、その中核と考えられています(ITSアメリカの分類)。
1)は、もうかなり実用化されているようです。一定の速度で国道などを走ると、行く手の信号が自分に合わせたように次々に青になってくれる体験をした方は多いと思います。これはほんの一例です。
2)も同様でしょう。「カーナビ」と例によって日本語的省略語でおなじみです。
3)が、今回の講演・見学会の内容です。究極には完全自動運転を可能にすることでしょう。
以上のように交通事故や渋滞という自動車交通問題は、道路新設・迂回などの従来からの手段を用いての解決はできない段階に来ているという認識が前提にあります。
そのため新しい手段として、ハイテク=ITを用いて解決するものがこの「ITS」なのです。
「エレクトロニクス、情報処理、通信、制御などのハイテクを用いて、事故、渋滞、環境汚染、エネルギー消費という道路交通問題を解決するシステム」が「ITS」なのです。
1)衝突安全ではなく予防安全
1970年代のダイムラーベンツの研究によれば「車対車事故の2秒前に回避行動をとると、すべての事故は回避可能である」そうです。自動運転等によって、これを実現します。
2)新たな道路新設によって効率を上げるのではなく、車両や交通流の制御による渋滞解消
単独ではなく自動車交通全体が対象となります。
道路全体にセンサーを張り巡らし、情報を収集し、それを走行中の自動車に伝達するとともに、走行中の自動車も各種センサーによって自車と周囲の位置速度関係などを感知計算予測して走行する。これが、そのシステム(自動運転・協調運転)の内容です。
なお、旧機械研では、1960年代からこれらのシステムの研究を開始し、その先導的役割を果たすとともに、昨年11月には5台の自動運転車両を用いて、世界ではじめて協調運転のデモ(DEMO2000)を行っています。
さて、昼食を旧機械研食堂でとり(そうでなかった人もいたようですが、つくばのこのあたりには、研究機関ばかりで、レストランなどは無いようです。余計なお世話ですが、どちらへ行かれたのでしょう)、バス2台に分乗して「つくば北センター」へ出発です。昨年のDEMO2000の時は、報道陣に公開された日の天候が悪く、純粋の手放し運転はあまり報道されませんでしたが(体験レポーターが、ニュースでコメントしていた)、今日はまずまずの天候でした(と思ったのはここまで)。
旧機械技術研究所正門
車中、社団法人機械技術協会副会長で、わが(有)水野テクノリサーチの提携団体TBIC(つくばビジネス支援センター)会長でもある矢田恒二技術士(工学博士)による、つくば北センターの歴史について解説が行われました。ここは、自動車の走行試験用周回コースのある施設で、昭和56年(1981年)に周回路・衝突実験施設など完成したのが最初で、以後各自動車メーカーなどが作る同様施設の原型になったそうです。ちなみに、つくばには、日本自動車研究所の周回試験コースもあります。こちらは科学万博の開かれた跡地で筑波西部工業団地の隣にあります。
体験試乗車は1台なので参加者45人を2班に分け、乗車順を番号札で決めました。なんと私は1番札です。
コースの様子。左人物の脇が展示車。右が体験車、中央が同伴車、左テールランプがついている車両が障害物。
北センターはつくば市の北西、国道125号線を南に少し入ったところ、寺具(てらぐ)と安食(あじき)にまたがった広大な土地です。晴れていれば筑波山が目の前に見えるのでしょうが、あいにくこのあたりから雲行きがおかしくなってきました。私は一番ですからすぐ試乗です。一回に3人、私は助手席に乗り、他の2人は後部席です。パソコン(トランクに窮屈そうに入っています)の液晶ディスプレィが助手席にあり、自車と他車、障害物などが表示されています。速度と方向が矢印で表示されています。オペレータの加藤氏が、簡潔に走行手順を説明してくれます。
内部。これは展示車(体験車と同じ)。
走行中のディスプレイ。矢印があるのですが見えません。
1)前車が発車するのを感知して自車もウインカーを出し、ブレーキを緩めアクセルを踏み込んで発車追随します。(ちなみに前車のオペレータは女性のかたでした)
2)車線を変更し、変更した車線に障害物のあることを感知してまたもとの車線に戻ります。
3)前車が停止すれば、自動的に車間距離を感知してブレーキをかけ停止します。
モード変換の都度パソコンのキーボードを操作してプログラムを起動しなおしていたのが、開発途上の雰囲気が出ていてなんとも面白いと思いました。
開始早々、手順が狂って自車が大きく進行方向をそれるアクシデントがありましたが、以後なるほどと思わせる自動運転・協調運転が体験できました。
ブレーキが多少強く設定してあるとの説明がありましたが、そう聞いていたから感じる程度で、加藤氏がハンドルから手を離しているのを見ていなければ、自動運転とは気がつかないような、スムーズな走行でした。
自動運転走行中。車線変更して追い越しているところ。手はハンドルから、足もペダルから離している。
しばらく順調に参加者の体験が繰り返されていたので、展示車を見学したり、写真を撮影したりしていました。後部トランクにパソコンやらなにやらぎっしりと詰まっています。
後部トランク内部。市販のパソコンがちょっと大きい。今はもっとコンパクトな製品もあるはずですが。
見学中。
屋根のDGPSアンテナの説明に、精度1cmとあるのに感心したりしていました。
ところが、雲が急速に黒くなったかと思うと、大粒の雨が落ちはじめました。展示車を大急ぎで屋内にいれます。しかし、体験乗車は続行です。
雨中の走行。
そのうち、つくば名物雷(かみなり)がとどろき始め、雨も本格的になってきました。体験乗車の終わった者は、屋内で昨年行われたDEMO2000のビデオを見ましたが、実体験にはかなわないのは当然で、眠気を催した(主催者に対しお詫びします)様な人が続出していました。
また、後半体験した方の感想では、雷(かみなり)のため、電波が影響を受けたモードもあったようです。赤外線では霧やスモッグに弱く、電波ではこうして雷(かみなり)などに弱い。まだまだ課題は多そうです。
こうして雷雨の中、無事体験乗車は終わり、全プログラムを終了し、またバスに分乗、途中つくばバスセンターを経由、旧機械研に戻りました。私の周囲の方はもちろん、参加者全員有意義な会であったと感じていると思います。津川博士、加藤さん、美濃部(?)さん、その他機械技術協会の皆さん、ありがとうございました。
(最後に、1つだけ不満。せっかく周回コースに行ったのだから、一度周回してみたかったです。でも、これは体験乗車への不満ではありません)
【おわりに】
「ITS」は、自動車関連業界、電子機械業界、情報産業業界のみならず、建設業界も注目している新しい技術の分野です。現在工事中の第二東名・名神道路では、このうちの一部が実用化されるようです。本日体験したシステムも、まずトラック等で2010年ごろ実用化、乗用車で2020年ごろ実用化を目標にしているそうです。それらこれらで、2015年の新たな産業による市場は60兆円規模となるとの予測もあります。
何はともあれ、身近な土木も、ずいぶん様変わりの予兆があります。
【参考文献】
「自動車開発プロジェクト工学−環境,ITS,運動性能,物流−」
藤岡健彦、鎌田実編 中村秀一、津川定之、山本真規、武田信之著 技報堂出版